「ついでにこれも」が積み上がる前に、線を引き直す
受託で消耗するのは、断れなかったときより、断るほどではない小さな追加が積み上がったときです。1件ずつは20分でも、10件で丸一日になります。ここで必要なのは断る技術ではなく、最初の約束の範囲を文字にして、外に出たぶんを見えるようにすることです。制度の側も、いまはその方向に動いています。
2024年11月から、発注時に何を頼んだのかを書き残すことが義務になった
2024年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行されました。第3条で、業務を委託する側は、給付の内容や報酬の額などを書面または電磁的方法で明示しなければならないとされています。
明示が求められる項目には、業務委託をした日、給付の内容、給付を受領する期日と場所、検査をする場合の検査完了期日、報酬の額と支払期日などが含まれます。また報酬は、給付を受領した日から60日以内に支払期日を設定することとされています。
ここで受託側にとって効いてくるのは「給付の内容」です。何を納めるのかが書かれているということは、書かれていないものは最初の約束の外だ、という手がかりが残るということでもあります。メールでもチャットでも、記録が残る形であれば材料になります。
範囲を守るのに要るのは、断り文ではなく「切り出し文」
「それはできません」と返すと、関係の話になります。「それは最初のお見積りに入っていないので、追加でお見積りします」と返すと、金額の話になります。同じ内容でも、後者のほうが相手も判断しやすく、こちらも消耗しません。
追加を断るのが目的ではなく、追加は追加として扱う、というだけのことです。相手に悪意があるとは限らず、たいていは範囲の認識がずれているだけです。
このとき効くのが、最初の見積に書いた言葉をそのまま引用することです。解釈の議論ではなく、文字の照合になります。
あとから増える入口になりやすい言葉がある
見積の文面に「など」「一式」「必要に応じて」「ご相談のうえ」といった言葉が入っていると、そこがあとから広がる入口になります。書いた時点では親切のつもりでも、あとから「必要に応じて、の範囲ですよね」と使われます。
修正回数、確認のラウンド数、素材の支給の有無、納品後の対応期間。このあたりが書かれていない見積は、範囲の線が引けていない状態です。
ただし、この法律が個別の取引をどう評価するかを、ここで断定することはできません。「無効です」「違法です」といった結論を出すページではありません。
この道具がやること
最初に出した見積と、いま来ている依頼の文を貼ると、依頼を1件ずつに割って「範囲の中」「範囲の外」「文面からは読めない」に分けます。あとから広がる入口になっている言葉もその場で拾います。
そのうえで、範囲の外のぶんだけを切り出して、追加でお見積りしますと伝える文を作ります。金額は出しません(単価を知らないので送る文の金額欄は空欄です)。相手の要求が正当かどうかも判定しません。
よくある質問
- 追加の依頼を断りたいのですが、なんと言えばいいですか?
- 断る言葉より、追加として扱う言葉のほうが通りやすいです。「最初のお見積りに含まれていないので、追加でお見積りします」という形にすると、関係の話ではなく金額と工数の話になります。このとき、最初の見積に書いた文言をそのまま引用すると、解釈の議論になりません。
- フリーランス法で、発注側は何をしなければいけないのですか?
- 2024年11月1日施行のフリーランス・事業者間取引適正化等法の第3条で、給付の内容や報酬の額などを書面または電磁的方法で明示することが求められています。また報酬は給付を受領した日から60日以内の支払期日を設定することとされています。
- 口約束やチャットでのやりとりでも、範囲の根拠になりますか?
- 記録が残っている形であれば材料にはなります。フリーランス法の明示も、書面に限らず電磁的方法が認められています。ただし個別の取引でそれがどう扱われるかは、ここでは判断できません。
- 見積書にどこまで書いておけばよかったのでしょうか?
- あとから揉めやすいのは、修正回数、確認のラウンド数、素材を誰が用意するか、納品後にどこまで対応するか、の4つです。また「など」「一式」「必要に応じて」といった言葉は、あとから範囲が広がる入口になりやすいところです。
- 金額の妥当性も見てもらえますか?
- いいえ。この道具は単価を知らないので、金額は出しません。やるのは、依頼を最初の約束の中と外に分けるところまでです。
↑ この道具を使う
出典:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法/2024年11月1日施行)。このページは制度の一般的な内容を説明するもので、個別の契約についての法的助言ではありません。